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はじめに
・まさかのパラレル設定大爆発。
・一話で終わらせる気満々だったのでちょっと長め。
・何故かロックが女装。
・書いてる人の頭が可哀想。
・仕方ない、妄想が書けって言ったんだもの。
そんな訳で、「ああいいよ、何でも来いや!」という勇者の方のみお進み下さい。
読んでからの苦情は受け付けませんので…!
こっち、こっち…――
さわさわと木陰が優しく揺れる中、油断していると聞き逃してしまいそうな子供の小さな声が呼ぶ。
こっち、こっち――
ちりん、微かな鈴の音が鳴る。どうやら声の主に近付いてきたらしい事を知る、あの苔むした大きな岩が削られてその中の祠から聞こえる声色に喜色が滲む。
ぼくはここ―――
ちりいぃん、澄んだ鈴の音が一際大きく鳴ると祠の扉が軋んで開いた。
薄暗い小さな空間からちょこんと小さな足が見える、足袋を履いた白い足。
埃が光を受けてきらきらと輝く社の中にあったのは黒字に金糸で柄が織り込まれている上質な着物を、お引きずりに着せられちょこんと座らせられた目を閉じている子供の人形。
白くふっくりと丸みのある頬、微かに袖から覗く指先。下唇だけにのせられた紅が白と黒の中に艶やかに栄えている。
「オレを呼んでたのはお前だな?」
ちりいぃん、黒い横髪を赤い紐で結わえ、そこに一緒に付けられている鈴が鳴る。
よ、と掛け声を掛けてその人形の前に腰を落ち着けた。頭を蛇に食われている様な頭部は随分目を引く格好で、比較的大柄の部類に入る体躯には祠は少々狭い。
「お前は土地神か?ここらに居るとは耳に挟んだ事が無いんでな、」
紅の引いた唇に薄ぼんやりともう一つ唇の輪郭が重なるとそれが口を開く。
ぼくは、神族じゃないです。人だったから。――
訥々(とつとつ)と語る話を掻い摘めば遡る事今から千年程昔、村の夫婦の間に生まれた子供は体が弱く、早くして親の元から旅立ってしまった子供を神様に愛されたとしてそっくりに似せた人形をこしらえて奉られた。
木製の体と振袖。風習として男の子に振袖と女の子の格好をさせると丈夫になるとされていた。それでその名残の格好なのだ。
人の記憶に残り、奉られていたが村は飢饉とその後の大水で無くなってしまったのだと言う。
悲しい、苦しいって地上に留まっていた魂を悪鬼や自縛霊になる前に上に全部上げたら…もう、何も無くなって。それからぼくは此処にずっとひとり…誰も、ぼくを知る人は居なくなって――
「やってる事は神と同じじゃねーか。狐狸妖怪魔物の類じゃないなら神仕でもいけるだろ」
そんな大それた事じゃ…だってぼくは恩返しをしただけだし――
ちりいぃん、優しい鈴の音と何処からか運ばれた柔らかい香りが鼻腔を擽る。ふむ、と自分の顎を手で撫でて逡巡した後胡座をかいていた膝を叩いて鳴らす。
「この侭朽ちて消えてくんじゃあんまりだ、徳もある程度積んだみたいだし丁度小間使いを探してたとこだからオレの遣いになれ」
一人話を進めて納得されると何と言えば良いのやら、ぽかんと開いた小さな口が緩く孤を描いた。
強引な神様だね。ええと…ぼく、目がないから見えないんだけど…あなたは何神様?――
「そうさな、目が出来りゃオレが何神か分かるだろうさ」
眠るように伏せられている瞼の奥までは作り込まれなかったのか、眉を八の字にして困った顔をする。と、神様と呼ばれた男が懐から小さな巾着を取り出し、木々の緑色を濃縮して輝く粒を2つ取り出し子供の木製の固い瞼に一つずつ押し付ける。
すると粒は柔らかい感触と共にすぶりと埋まったのだ。
最後の仕上げとばかりに口を窄め息を子供に吹きかけると薄く積もっていた埃も無くなり頬に僅かに朱が差す。
「っし、これでお前の目玉は出来たぜ。さて此処に縛られてないなら留まる必要もないだろ、ほらさっさと出るぞ」
ちょこんと膝の上に揃えられていた小さく白い手を掴み引っ張る。普通なら乱暴に扱われ崩れるか壊れるかだが、手を引かれる侭人形だった少年は男の後ろを覚束無い足取りで着いて歩いた。
閉じていた目を開けるときらきらと光り輝く二つの眼が強引な男を捉える。
「へびがみさま?」
眩しい外の世界にはまだ馴染まない双眸を細めて男の出で立ちを頭の天辺から爪先まで見、ことんと首を傾げて確認する。
「おう、アタリだ。蛇は英名だとスネークって言うらしいぜ、カッコイイからそう呼べ」
男と少年だと体格差からして歩幅が異なる、手を引かれる侭必死に着いて歩く少年を男はひょいと片腕で抱え上げた。
「お前さんは名前あったのか?」
「うぅん、名前が付けられる前にぼくは死んじゃったから無いよ」
「じゃあ岩んとこの社に祠に居たから岩…英名でロックはどうだ、引き振袖の姫さんの見目にはちと合わないがカッコイイぞ」
「神様が付けた名前なら…格好の事は言わないでよ」
「はは。しかし今誰かが見たらどっかの花嫁さんを浚ってる妖怪みたいだな」
くすくす、片腕に軽々抱えられた少年は柔らかい木漏れ日を浴びてふんわりと笑う。
長い間独りきりで酷く寂しかった祠を振り返る事はなかった。
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