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前記事の続きの文です。
よろしければ下記よりどうぞ。
「正直、ぞっとした」
修復の為運び入れた研究所のある部屋の前、わざわざ用意してくれた椅子に腰掛けて誰にともなく呟いた言葉を拾ったのはこの研究所の博士の補佐を勤めるロボットだった。
右に左にと忙しなく動き回る博士とその娘がまさか動いてくれるとは、ほんの僅かに期待していたがそれ以上に応えてくれている。
「――で、どう“ぞっとした”んだ」
真横に腕を組んで立ち視線を投げてくるロボットを左目だけで見上げた。
「あの時のあれで、奇跡的に遺っていた事実と今にも其処に崩れ落ちて朽ちてしまいそうな光景、だ」
「つまりは二度も失う恐怖か」
「…そういう事だ」
らしくない、と表情を僅かに歪ませて口角を持ち上げる彼から閉じられた部屋の扉を見遣る。まだそこは開く気配がなさそうだった。
常に冷静沈着であるべき、である忍びが給排気を忙しなく稼動させて研究所にやってきた時に、一体全体どうしたのだと居合わせたロボット達は驚きを隠せなかった。
そしてその腕の中にある存在を見て更に動揺が広がるのに無理はなく、それでも事情を聞かず真っ先にメンテナンスルームに運ぶように指示をしサポートを手際良く頼む娘は数々の出来事を潜り抜けてきただけある。
「リングマンはお父様に連絡を、ブライトマンは一緒にこっちへ。シャドーマン、その子をこっちに運び入れてちょうだい」
直ぐに色々な機械を作動させてそれらの端子が子供に接続される光景は安堵と不安を呼び寄せるのには十分だった。
リングマンの連絡を受け暫くしてから戻った娘の父親である博士はシャドーマンの存在を一瞥して部屋へと入り、それからの経過はただ重く過ぎてゆく。
「しかし…もし、お嬢様や私達がここに居なければどうするつもりだった」
「正直な話、其処までは考えが及ばなかった。何せ可笑しな位冷静さを欠いていたからな」
その時はその時だ、と自嘲し何も変哲のない天井を見上げるシャドーマンの様子に、らしくなさを垣間見たリングマンは何処か他人事でありつつあの小さな機体が無事であれば、と願った。
どれ位の時間が経ったのか、天岩戸が開く。
額に汗を滲ませた博士が顔を覗かせると天を仰いでいたシャドーマンが顔を真っ向に向け直した。
「電子回路は殆どボロボロでコードもあちこち千切れていた侭だったのも酷いが、大きさの違い過ぎるパーツが取り付けられていた為に全体が歪んでいたよ。オイルも辛うじて残っていた程度で痛覚がシャットダウンされていたのが良かった、今修復を出来る所までは済ませているが…満身創痍だったよ、彼の身体は」
扉の合間から見える、台に横たえられた少年の身体に不釣合いだったパーツは外されて直接打ち付けられていた鉄板ももうない。
幾つかの端子は接続された侭だがモニターが指し示す数値は安定しているらしい、幾分和らいでいるように見えた横顔に肩の余計な負荷が取れた気がした。
「…かたじけない、」
「いや、正直彼がどうなっていたかあの時から気にはなっていたからね、安否が分かっただけ良しとしようじゃないか。しかし…こう言うのも何だが、幸か不幸かデータが殆ど残っていなかった」
機体の電子回路に残っているであろうデータの抽出を試みたらしいが破損が酷かったのか基本的な初期起動ソフトと学習ソフトが少しだけ残っていただけで、彼の記憶は殆どまっさらな状態だった。
データの消失、それは彼が『オリジナルのロックマンのコピー』であった事が記録として残っていないことを指し示していた。
自分が何時、何処で何の目的の為に造られ、存在していたのか――それを知る術を、少年は、コピーは知らない。
「一縷の望みを託して復元を試みてみるかい?それは私が言う事ではないかもしれないが、彼には残酷ではないかと思っている。だが今、彼をどうこうするのは同じナンバーズである君の意思を聞きたい」
ライトの当たる角度でDr.コサックのレンズの向こう側が窺い知るのは出来ない。
あの子供に選択を与えたのは紛れも無く自分であり、結果を招いた切っ掛けを与えたのも自分であることは変わらない。
ただ、あの後答えのない自問自答をしてふと考えた思いついたものがある。
人はそれを馬鹿にするだろうか?
見下ろすリングマンとDr.コサック、そしてきっと向こうで耳をそばだてているであろう娘カリンカとブライトマンがシャドーマンに集中するのを感じ取りながら、小さい、けれどはっきりとした声で告げた。
「そうだな…同じナンバーズとして、いや――」
彼の意思は一同を驚嘆させるものだった。
2010/10/30 影複製(シャドコピ) Trackback()
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