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一応、なんだろう…一部?完結になるのかな。
この後もちょこちょここの話ベースの小話は続けますが主体であるこの「ふたり ならんで…」はこれにて了となります。
微妙に長いかも。
そしてここで、コピーロックに新しい名前が付きます。
そんな設定やだ!な方は薄目で読んでください。
よろしければ下記よりどうぞ。
起動して最初に視覚から得た情報は眩しい光、それに続いて影になったシルエット、アイカメラのピント調節をすると人が映り込む。
男の、人とそれよりももっと若い人、こちらは女だ。与えられたボディの内部で忙しなく情報が行き来する。
「おはよう、ちゃんと声は聞こえるかな?」
きっとこの音に関してに違いない、アイカメラを守るための蓋を数回上下させると二人、そうだ二人、の表情筋が和らいだ。
「……―――あ、…」
人工声帯が初めての音声を紡いだ、けれど何と続けて良いのか分からず口をぱか、と開けて止まってしまう。
「ああ、大丈夫。無理して喋らなくても問題は無い、今君の中には沢山のデータが新しく入ったから一つずつ調節していこう」
データ。各部位の動かし方、学習ソフト、言語聴覚、味覚・視覚感知、計算処理、それから、それから
膨大な情報を一つずつ読み取り吸収し処理していく。
「―――固体識別番号、機体名、無し」
番号も名前も存在しなければ、この身体が造られた目的も一体何なのだろうか。
「名前、そうだ、君の名前を決めなければならないね。私が勝手に決めて良いものでもないし…」
そうだったと、眼鏡を掛けた男の人は自分の口周りに生えている髭を右手で撫でつける。この機体の製作者なのに何故?アイカメラを塞ぐ瞼を上下させて瞬く。男の人は小さく唸ってから、誰かの名前を呼んだ。
「シャドーマン、この子の名前は決まったのかい?」
台の上で横になる自分からは伺えない方向へ声が掛けられると気配が一つ生まれる。きっとロボットに違いない、人の体温とは違う熱をセンサーが感じ取った。
するとひょこりと顔を覗き込む顔が一つ。誰だろう、データが無いから分からない。
「ああ、目が覚めたで御座るか。拙者の名はシャドーマン。僭越だがお主の名を拙者が考えた」
片方の目を瞑った顔は男の人と同じ位の年齢に設定されているロボット。シャドーマン。忍者、と呼ばれる格好をしているらしい。御主、はきっと自分の事で名前を与えてくれる、らしい。
「シャドーマン、名前?」
「そう、拙者の名前がシャドーマンだ。そしてお主の名前は影である拙者と対になる光、ひかり、と書いて“みつ”としようと考えたのだが…どうだ?」
「み、つ?」
対になる、名前。シャドーマン、影、光、対になる、正反対。対になる、二つが一つ。
「そう、光あるところの影。影は光が無ければ出来ぬからな」
伸ばされた手が、人工頭皮の頭を優しく撫でる。大きくて、優しい、シャドーマンの、手。
「みつ…名前、ぼくの、名前」
胸の中に埋まる動力炉がふわりと開いて温かくなる感覚。顔が、柔らかくとろけた。
その侭すぅ、と瞼が閉じるのを見届けて三人顔を合わせて頷く。
「初期起動は問題無さそうだ、後は身体の修復に力を入れていかなくちゃならないが…本当に、良いんだね?」
父親と、ロボットの様子を固唾を呑んで見守る娘は新しく名前を貰って安心しきったロボットに上書きされた情報をモニターを通して確認する。起動は順調だ。
「ああ、この子は最初に拙者が頼んだ通り。変更は無い」
少年の頭を撫でる手付きも表情も、それは酷く優しいものだった。
「コピーとして生まれて得たデータは修復しないで其の侭綺麗に消して欲しい。それと、戦闘の機能が搭載されているだろうが其方も失くせるだろうか?」
最初その言葉を聞いたコサック博士と娘のカリンカは驚き目を丸くする。彼のオリジナルは元家庭用でありながら自ら望んで戦闘用に改造され、数多の野望を阻止した強さを兼ね備えていたから尚更の反応だった。
そしてそんなオリジナルのコピーを作成したのがシャドーマンの博士、Drワイリーであり、オリジナルに野望を打ち砕かれていたのである。
ワイリー博士の生み出したロボットは戦闘用ばかりだからこそ、彼の、シャドーマンの言葉は驚きを隠せないものだった。
「拙者は今、一緒に戦える相手が欲しい訳でもない。ただ共に旅をする存在が欲しいだけだ。そうすれば拙者が気付かない事をこの子は気付くかもしれない。一人よりも二人だ」
「本当に、それで良いのかい?」
「無論、問題は御座らん。一つ欲を言うならば、旅の途中の不測の事態に備えて少し頑丈目に頼みたい」
からからと笑って冗談を言えば親子は顔を見合わせて、笑んで頷いた。
少年の腕は二度とバスターには変化しない。
残っていた“W”と記載されていたチップも無くなり残っていた記憶データは完全に消し、余計な武装装備が無くなれば軽量化も計られた。
「ねえ、お父様」
電圧の示す計測値を確認する娘の問い掛けにいよいよ仕上げの追い込みに入っていたコサックが顔を上げる。
「何だい、カリンカ」
「シャドーマンはどうして、この子を普通の人間の様に近付けたかったのかしら」
「それは彼の思う所があったんだろう。人は彼らに心を与えるのは馬鹿げた話だと鼻で笑うが、例えそれがロボットだとしても彼らは人が生み出した大事な子供だ。心があるからこその悩み、考え、時には傷付き後悔し、次に結び付けるべく学び、次を見つけて考える。彼は今この瞬間、心で沢山を学んで必死に考えている、これがその考えの一つ、答えの一つなんだよカリンカ」
台の上で目を閉じる少年は彼の答えの形だった。
「どうも世話になった、かたじけない」
あれから修復も無事終え機動に問題は無いとしたコサックの判を貰い、身支度を整えたシャドーマンの傍にはカリンカが見繕った服を着た少年、光が居た。
今まで研究所の中で調整を行っていた彼にとって外の世界は初めてで、大きな瞳できょときょとと忙しなく周りを見渡す動作は幼い子供そのもので微笑を誘う。
「さ、光も礼を」
ぽん、と頭を撫でて促されて我に返った少年が深々とお辞儀をする。
「あ、ありがとうございました」
「二人とも、気を付けてね」
カリンカが少年の頭を撫でると照れ臭さからシャドーマンの後ろに引っ込んでしまった。
「何かあったらまたおいで。ああ、勿論次からはちゃんと連絡を入れてくれるとありがたいかな」
「肝に銘じておく。緊急を要する事で駆け込む事は拙者も避けたい所だ。では、これにて失礼する。光」
後ろに隠れた少年を促して前に出すとDCNのブライトマンやリングマンと握手を交わす。ブライトマンは洗浄液で目が潤んでいた。
「気をつけてね」
「うん、またね」
頭を下げて去るシャドーマンの横に寄り添い、振り返って手を振って去る少年。その少年を見下ろす眼差しは優しくて、そっと伸ばした大きな手は少年の背中を支えている。歩幅も子供のコンパスに合わせて、ゆっくりと二人の背中が小さくなっていった。
優しさに満ちた光景に見送るカリンカの瞳にうっすらと涙が滲む。
「ねえお父様、彼らは大丈夫かしら?」
「さあ…世の中はデータでは計算出来ないし都合の良いようにも出来ない、彼らがこの先どうなるかは分からないが少なくとも、幸せであって欲しいと願うよ」
小さく小さくなった背中が見えなくなる、でもこれは今生の別れではないだろう。
カリンカが涙を隠す為に見上げた空は澄み渡っていた。
新しい二本の足で地をしっかり踏みしめて歩く。隣には優しい、対の存在。
行く場所は決まってないけれど、二人で居ればきっと何かが見付かるはず。
ふたり ならんで あるける しあわせ。
(了)
2010/11/02 影複製(シャドコピ) Trackback()
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